──秘密の倉庫から通路に出ると、遠くから小さなサイレンの音が聞こえていた。
事故か何かあったのかしら?
物騒ね。
「おっ……お嬢様?」
スコーンの香りが漂うキッチン。
執事は鍋でミルクを温めていた。その手が止まる。
「私も、使用人になるわ! だけど……私は使用人長の役よ? 柏原は、今日から私の部下ね」
「何故、そのような細かな設定までお決めになられてるのです。すぐに着替えをなさってください」
柏原が、私を拒否するから……私はあなたに歩みよる方法をいつも必死に、考えなきゃいけないんじゃない?
そうしないと……この執事は逃げてばかりだ。
「嫌よ。私も柏原と同じ使用人になるわ」
焼き立てのスコーン。
今日も美味しそうね?
ほんのりとピンク色をしたスコーンはラズベリー味ね。
バスケットを用意して、薔薇の柄をしたナプキンをひく。
これくらい、私にだって余裕よ。
惚れ直すといいわ……
柏原!
「……お止めください。私は、貴女に私と同じ立場になっていただきたいわけではないのです」
切なそうな声がすると、優しい眼差しと綺麗な顔がすぐ目の前に迫る。
やっぱりメイド萌えね?
威力抜群だわ。
「私は……ただ貴女に……」



