「何故、セルマン先生の用意された原曲の譜面が、警報器に詰め込まれていたのでしょう……」


柏原は、切なそうな表情で私のヴァイオリンケースの横に置かれた真新しいアレンジ曲の譜面に視線を落としため息をつく。


「何故かしら?」


今度は、対照的に私を鋭く睨みつけた。

ビクッと肩を震わせて竜司に、「たすけて」と訴えると竜司はブンブンと首を左右に振った。


「こちらに過失がある場合、修理が多少遅くなっても文句は言えませんよね? お嬢様」


「そっ……そうよね! 一週間なんて、あっという間だわ♪ 柏原問題ないわよ!」


そうよ。

一週間なんて
たったの七日間だわ。


一年、三百六十五日もあるんだもの……七日間なんて一瞬よ。


「まもなくセルマン先生がお見えになられます。コチラの譜面は私が預かります」


私の、真新しい譜面は奪われた。

そしてグシャグシャの譜面がヴァイオリンケースに添えられる。


まるで死者の棺に、花を添えるような悲しげな執事。

彼からは、ふつふつと怒りのオーラが漂う。


「竜司様もよろしかったらセルマン先生のレッスンを見学されてはいかがですか? その後、夕食会を予定しております」


柏原は黒い黒ーい笑みを浮かべて、私と竜司を見比べた。

恐いわ!

恐い恐い~今夜は絶対にお仕置きよ~



「えっ? いいの?」

だけど、竜司は嬉しそうだ。



「ええ……あなたにも"色々"とお世話になっておりますので……」


クスリと、笑う執事は
背筋が氷る程に美しい。


でも、恐いのよ!