───警備の確認に出た執事が、私達のいる部屋に戻ってきたのはそれから大分時間がたってからだ。
私は、退屈だったので竜司を相手にヴァイオリンを弾いていた。
柏原を横目でチラリと確認した。
柏原ってば、中々帰ってこないし……「茉莉果ちゃんのヴァイオリンを聴いてみたいな」と可愛い目をしたコアラに頼まれては、私も断れなかったのよ。
それに今日は、ドイツからやってくるセルマン先生のレッスン日だ。
課題の、モーツァルトの協奏曲を最終確認の為に奏でるのも悪くない。練習熱心な私を、柏原が褒めてくれるかもしれない。
柏原……
ちゃんと聴きなさい?
私は練習熱心なお嬢様よ。
最後の旋律を長めに響かせると二つの拍手が送られる。
「凄いや! 茉莉果ちゃん最高の……」
「どうだった? 柏原!」
ヴァイオリンを置いて、急いで柏原に、腕を絡ませる。
「素敵でしたよ。お嬢様」
この笑顔…………
最高。
なんて、素敵な執事なのかしら?
私の相手にピッタリね?



