「柏原くん、君とフィレンツェで初めて出会った時、私はなんて美しい青年だ……と目を奪われたよ。

その気丈な振る舞い、秘めた優しさ、その賢さ、どれをとっても文句なく君は素晴らしい。

茉莉果……私は、柏原くんをクビにしたりはしないよ。茉莉果の大切な執事だろう?」


「お父様……」


「たまにしか帰らない屋敷で、茉莉果はいつも明るく可愛らしい笑顔で私達を迎えてくれる。それは、全て柏原くんのおかげだと信じてる」


お父様。

お父様は、全てを許してくださるのね?


「旦那様、本当にそれでよろしいのですか?」


柏原が目を細めた。


「竜司くんとの婚約話。実はちょっと残念だが……柏原くんの判断だ。私達は受け入れよう」


「茉莉果もそれでいいのよね?」



「はい! お父様お母様」



「そんなぁあああ……」


竜司は泣き崩れた。


その横で柏原は、安心したような顔をしている。