殺人的なキスが止むと、柏原は苦痛に満ちた表情でいっぱいだった。


私への愛をとるか……
紫音家を裏切るか……

苦悩の決断だろう。


「私も一緒に責任はとるわ。柏原は何も悪くない」



「……ええ、参りましょうお嬢様」



……再び重厚感ある扉を開く。


すると、そこには拍子抜けするくらい穏やかな光景が広がっていた。


切り株を囲んで、優雅にお茶する両親と竜司と陽子さん……


なによっ!

こっちは、修羅場を迎えていたのにっ!



「おお! 勝負の準備ができたかな?」


「お待たせして申し訳ございません……旦那様、それから竜司様」


柏原は、音もなく円テーブルの前に立つ。

竜司は、ビクリッと肩を震わせ食べかけのクッキーを切り株の上のお皿に戻した。



暗黒オーラー全開ね? 柏原

可哀想に……元コアラが震えているわ。


お父様は、場違いな程にワクワクしたようすでジャッジ席についた。



「では! 手を組んで」


「えっ? もうやるんですか?」

竜司はクッキーを持っていた手を、おしぼりでゴシゴシと拭く。


「ああ、テーブルと対戦者がいれば出来る勝負だから『腕相撲』にしたんだよ。竜司くん。フェンシングとかなら格好はつくが……準備が大変だろう? それに、この間抜けさがSWYには持ってこいだ!」

お父様が勝手にSWeeT†YeNっていう訳のわからないタイトルを略したわ!


それはさておき
お父様以外のその場に、いた全員が固唾を飲む。


陽子さんは鋭い眼差しで柏原を睨みつけている。

私は、陽子さんを睨み返し。柏原側に立つ。



柏原は、まだ苦痛に満ちた表情だ。




ああ、お母様を忘れていたわ。優雅に切り株の上で「まぁ」と笑いながら勝負の行方を見守っているお母様。


うちの両親に危機感というものは、欠如しているようだ。