「お父様、意味がわからないわよ! どうしたら柏原が私の婚約を破談させてくれるのかしら?」


私は、ますます柏原の腕にからみついた。


「破談って、茉莉果ちゃん酷い……」


「茉莉果様……」


柏原は困ったように微笑む。

その横顔。こんなにもカッコよかったのね……



今まで、こんな美しい顔を毎日見てきたなんて
私、なんて贅沢してきたのかしら!


「柏原は、私と竜司が結婚したら困るでしょう? ねっ? 柏原、すごーく困るわよね? 世界的大恐慌よね?」


芸術作品のような整った顔が寂しそうに揺れる。


「お嬢様、使い方が間違っておりますが……難しい言葉を覚えられたのですね?」


「私が竜司と結婚したら……貴方は私の執事ではいれなくなるのよ?」



だけど、執事は答えをくれない。


小さく首を振り
私の手を離した。



嫌────
柏原が何を考えてるかわからない。


ここまで来てくれたのは、柏原が私と同じ気持ちだったからじゃないの?


柏原は、私から離れてお父様の元に膝を着く。

絶対の忠誠心を、柏原はお父様に見せる……



私じゃなくて、お父様に?

雇い主だから?
お給料くれるのは、お父様だから?




「勝負は一回だよ、柏原くん」


「かしこまりました。お嬢様にとっての幸せだけを考えて勝負に挑みましょう」