「────竜司! はやくしてよっ」

「ねぇ! 茉莉果ちゃん! カナダは春でも、すっごい寒いよ? なんで手ぶらなのさ」


カナダに行きたい、と伝えたら、内緒で連れていってあげる、と言う優しいコアラの竜司。

同行させたのはいいけど、なんせ行動がトロい。




だけど、自慢じゃないけど、一人で海外に行く自信はないからトロくても竜司にカナダまで連れて行ってもらわなくてはならないのよ。



「手ぶらじゃないわ。ちゃんとパスポート持ってきたわよ」


私は、赤いパスポートを竜司に見せつける。


バカにしないで頂戴。私は紫音茉莉果よ。

常識はあるわ。


「あはは……じゃあ、大丈夫だね」


空港ロビーをスタスタ歩く私と、大きな荷物をゴロゴロ転がし歩く竜司。


「茉莉果ちゃん、この専用カウンターから手続きするから待っててね!」


なかなか素敵なプライベートラウンジね。

フカフカのソファに座ると専用ラウンジのスタッフが温かいおしぼりを用意してくれた。それからドリンクメニューを見やすい位置で広げてくれた。



「ダージリン、ホットで」

「かしこまりました」



中々順調ね。

学校は春休み中だから、空港ロビーは混雑してた。少し歩き疲れたけど、このラウンジは好き。

竜司がトロトロと、飛行機の手配をしてくれているけど許せるわ。



「茉莉果ちゃん、手続き終わったよ。飛行機の出発まで時間あるけど……買い物とかする?」


「紅茶をいただいてから考えるわ」


「そうだね」


竜司は嬉しそうに笑いながら、私の隣に腰をかける。


使用人じゃないから、隣に座ってもしょうがないわね。いいわ、今だけゆるす。