柏原の唇が、ゆっくりと私の唇に近付く……


またキスね?




そうだ……

柏原からのキスは、殺人的よ!
今のうちに酸素を吸い込まないと!


スーッと息を吸い込み、ギュッと目をつぶる。


殺るなら、はやくして!
覚悟はできたわ!



「いかがいたしましたか?」


「何よ! 今日はキスしないの?」
 


「……して欲しいのですか?」


柏原は首をかしげた。
黒髪が頬にあたってくすぐったい。


もし悪魔がこの世に存在するならば今の柏原みたいな顔をしてると思う。


「して欲しいわけじゃないわ! 手をほどいてよ!」


執事にキスをねだるほど私は落ちぶれてなんかいないわ!


「先ほど話があると言ったのは、貴女に清く美しく存在(あり)続けていただきたいと思ったからです」


優しいようで、冷たい手が私の唇をなぞった。


やっぱりして欲しいかも……



ダメよ! 茉莉果!
しっかりしなさい!



「それから……いつか、貴女から私を求めさせてみせましょう」


意地を張って、執事を睨みつけた。
だってこれが嫉妬だなんて、この時の私には全然理解できなかったから。