彼は、人の良さそうな笑みを浮かべると私の席に移動してきた。
席に座る時に「失礼」と軽く会釈する。
多分、上流階級の人間ね。
私の親友の財閥の娘の麗香の……違う、も! 普段は下等な生き物だけど、こういう然り気無い仕草で育ちの良さがにじみ出る。
それを言うなら、柏原の仕草は超一流だ。
彼は、きっと良い教育を受けてきたに違いない。
私には敵わないけどね?
「思い出した?」
「どちら様でしょうか?」
うーん……
会ったことがあるかしら?
「ヒントは、動物園!」
動物……えん……
「コアラ……」
あっ!
「わかった! 動物園で、昼寝して全然動かなかったコアラね!」
そう
あれは確か……
以前通っていた学校で、修学旅行にオーストラリアへ行った時だ。
動物園という場所に足を踏み入れた事があるのは、その一度だけだ。
あの時の、やる気のないコアラで間違いないわ!
今の目の前の彼は……ひょっとしたらコアラの生まれ代わり?
「そう! コアラ! 全然動かなかったね!」
ああ、やっぱりコアラの生まれ代わりなのね。
あの時の潰れた顔が、ずいぶんと端正になって生まれ変われたのね。
「茉莉果ちゃんと僕で、一緒にコアラと記念撮影した……」
「茉莉果様! お待たせいたしました」