今まで、私は映画やテレビに騙されていたのだ。


『この人、ピアノがうまい!!』と、純粋に目を輝かせていた乙女を詐いたのだ。


そんな技術があるなら、是非私がセルマン先生のレッスンをうける時も、手だけ代わりに弾いてくれる人を雇いたい。


「ねぇ? 柏原、手だけのプロのバイオリン奏者っている?」


「お嬢様、ついに化け物に遭遇なさいましたか?」


「違うわよ……私の代わりに、手だけバイオリン弾いてくれる人を雇いたいの! この映画みたいに!」


 柏原は眉間にシワを寄せ短くため息をついた。


「お約束は出来ませんが……"手だけ"探す努力は、いたしましょう」


「ありがとう! 柏原、大好きよ」


 そう伝えると、低く頭を下げる執事。


「それで? 今日の予定は?」


「十六時より、映画の試写会に招待されています……ちなみに、先ほど申し上げましたが」


 映画の試写会かぁ……
何を着ていこうかしら?

柏原が「素敵です」と言ってくれた洋服にしよう。


「それで? 柏原、何時からなの? 試写会は」


「十六時……つまりは、夕方の四時でございますよ、お嬢様。ちなみに、三回も申し上げました」


お茶して、柏原特製クッキー食べて……けっこう時間ないわね?


「オッケー、四時"頃"ね?」


「四時でございます。お嬢様、四時"頃"ではなく四時でございます」


「わかったわよ! 四時"頃"ね」