「それが、お嬢様の望みならお供いたします……ですが、最後まで"起きていられる"なら」


怒ったような目付きで私を睨み付ける柏原。


本当に、注文の多い執事だ。


「あら? 眠たくなってしまうほど、優雅で素敵で夢心地にさせてくれる素晴らしい演技って事よ?
客席でぐっすり熟睡している人がいるって事は、スタンディングオーベーションより価値あることだと思わない?」



私がヴァイオリンを演奏して、会場中が寝てくれたら

奇跡だ!
と、泣いて喜ぶわよ?


「お嬢様、本当に貴女は――」


「なぁに?」


「いえ、何でもございません。夕食にいたしましょう……陽子さんも職務に戻られた事ですし、二人きりの夜でございますね?」


一瞬、執事の笑みに黒い影が射し込む。