「────なによっ! 目と鼻の先じゃない!」


屋敷を出て十分かけて敷地の外に出る。
門を右手に……屋敷の柵沿いをさらに十分歩く。
するとすぐに隣に鉄筋コンクリートの建物。



お洒落なマンションだわ。

無性に苛立ちが募るわ。




陽子さんから、半ば強制的に柏原の居住地を教えてもらった。

「ヴァイオリンをやめる」と言ったら、簡単に口を割った。あの女の音楽フェチと言ったら相当なものだ。


それよりも柏原に、今すぐ会いたいし帰ってきて欲しい。

柏原がくれたキャメルのマフラーと手袋をして、私は自分の足で柏原に会いに来たのだ。


陽子さんは「私も行きます」と言っていたけど即答で断固拒否した。

私と柏原の邪魔しないでいただきたい。