「そのようなことを申し上げたいわけではございません。説明が難しいので、この件につきましては、私に一任くださいませ。お嬢様、兎にも角にも、このままではお嬢様が学校に遅れてしまいますので、はやく朝食をお済ませください」


「学校なんて遅れても誰も文句は言わないわよ。説明を怠るなんて、執事失格ね」


「申し訳ございません。しかし、お嬢様を遅刻させるわけにはいきません」



 両親は学校に多額の寄付をしている。理事長から教師まで私に文句を言う人はいない。全然わかってないわ、この執事。

『ヴァイオリンの練習をし過ぎて寝不足だ』と言えば授業を欠席しても大丈夫だもの。医務室のふかふかベッドですやすやお昼寝させてもらえるもの。

 そして眺望の眼差しで讃えられるのよ。私はそういう人なのよ。



「茉莉果様、お急ぎください。さもなくば練習試合はお連れする事が難しくなります」


「え? なんでよ」


「ナツ様は、遅刻なさらずに学校に通う令嬢
を好まれることでしょう。大切なことです。お嬢様に恥をかかせるわけにはなりませんから」

 ぐぅ…………

 柏原は冷酷にそう告げたので、私は大人しく朝食を食べることにした。