「申し訳ございません。先を急ぎましょう、一般のお客様が入る時間になってしまいます」


「そうね……」


でも、もう少し柏原の話や考えを聞いてみたいとも思った。

私の執事が、こんなに自分の考えていることに雄弁なのは珍しい。



先を歩く柏原に、腕を絡ませてみた。
なんとなく、そうしてみたい気分だったから……


「……っ? 茉莉果様!?」


「もっと柏原のルネサンスを語ってくれてもよくってよ?」


柏原は、驚いて身を引こうとする。
だから、強く腕を握りしめた。


「お嬢様、腕を御放し下さい。私は一介の使用人でございます」


「なによ。柏原、この前上手に演奏できたらご褒美くれるって言ったじゃない。エスコートくらいしてくれてもいいでしょ」


「しかし館長が控えておりますゆえに……」


「ダメー!」



それにしても、今の柏原。
なぜか凄く孤独に見えた。


なんだか胸が、切なくなったのは……どうしてなのだろう?