「柏原待ちなさい! 今何時なの?」

ガバッと飛び起きて、ベッドサイドに置いてあったガウンを着る。


「正確には、午前十一時三分二十五秒でございます。お嬢様」


肘を床と平行にして、時計から正確な時間を読みあげた執事は、美しい眉をしかめた。

「なんで起こしてくれなかったの?」

私は小走りで隣にあるウォークインクローゼットへと急行した。

昨日の帰宅時のハイキングで身体中がギシギシと悲鳴をあげている。


「お嬢様から、今朝はお声をかけぬようにと申しつかっておりましたので。ですが浩輔様がいらっしゃいましたので、私の判断でお声をかけさせていただきました。命に背き申し訳ございません」


「もう、いいわ……ありがとう。支度するから浩輔に待つよう伝えてちょうだい」

「かしこまりました」


私はクローゼットルームの扉を乱暴に開けると、急いで身近にあったワンピースに着替える。


寝坊した時はワンピースに限るわ、可愛いし着替えも楽だ。


着替えが終わると慌ただしく顔を洗い、今度はドレッサーの前に陣取る。

アンティーク調の木で彫刻を施された、このドレッサーは、世界に一点しかない貴重なもの。

大きな鏡に自分を写し出し、胸まで伸びた少し癖のある髪を手早く左横に束ねる。

母からもらったベネチアンガラスを使ったヘアアクセをつければ完璧よ!


「よし! 可愛い!」


素質が良いから、あまり飾らなくても可愛いのよ私。
美人って得よね?