ビル群の真ん中のとりわけ豪華なホテルに到着する。
私が車から降りると、総支配人がドアの前で待っていた。
「ようこそお越し下さいました。紫音様」
「お出迎えありがとう」
柏原に手をひいてもらい、顎をツンと突き出してエレベータに乗り込む。
最上階のレストランに着くと総料理長が待っていた。
「いらっしゃませ茉莉果様、本日が素敵な夜になりますよう料理人一同誠心誠意こめて料理を提供させていただきます」
「そう、ありがとう」
両親と陽子さんが席で待っていた。
窓ガラスの向こうには、宝石箱をひっくり返したような夜景が広がる。
「遅くなりました、お父様」
「ああ、よく来たね茉莉果。今日は柏原君も席につきなさい」
柏原は私の椅子を引き、私が着席したのを見届け、上機嫌なお父様に戸惑ったような視線を投げる。
「いえ、私は外で待機しております。用がございましたらお呼びください」
柏原は、性格が悪くて威圧的でどうしようもない執事だけれど、執事としての謙虚さは弁えているのだ。
雇い主と主人とレストランで同じテーブルに座るなど有り得ない。
だけど……
「柏原も座って! 命令よ」
陽子さんが私より先に、席に着いていて、私の柏原だけ座らないなんて……もっと有り得ないわよ!
確かに私が、レストラン内に入ると陽子さんは起立して深々と頭を下げていたけど……
私のただならぬ睨みに、戸惑っていた柏原が頷いた。
「かしこまりました、お嬢様がそうおっしゃるのでしたら」
お父様もお母様も優しすぎるのよ。
使用人を同席させたなんて、おばあ様が知ったら悲しんだろう。



