「茉莉果あああぁぁぁx!」
「茉莉果あああぁぁぁx!」
お父様のアルトボイスとお母様のソプラノボイスがハルモニーする。
感動の再会はいつも突然で、作曲家のお父様とピアニストのお母様はいつも世界を旅している。
だから、こうして三人でいられる貴重な時間は私にとって凄く大切なのよ。
「ごめんね。茉莉果」
たまにしか会えないけど大切な両親は、こんな時に必ず謝罪を口にする。
私に対して罪悪感があるからなのかしら?
「嫌われてないか心配してたんだよ」
嫌ったりなんてしないのに、二人は泣きだしてしまいそうな顔になる。
私は精いっぱいの笑顔を二人に見せた。
「旦那様! 奥様! 都内のスタジオで収録が始まってしまいますよ!」
そんな中、嫌な声が聞こえてきたわ。
本当に大嫌いな女。
両親のマネージメントをしている女だ。
元々ただの使用人だったのに、両親が海外を旅する際にはいつも陽子さんを連れていく。
「茉莉果様、お久しぶりでございます。お元気そうで何よりです」
陽子さんは早口で挨拶をするとスケジュール表を取り出し、時計をチェックした。
知的なブラックスーツを着込み、その敏腕ぶりはかなりの定評を得ているらしい。
陽子さんは慌ただしく手を叩いた「お二人が、どうしてもお嬢様に会ってから収録に向かいたいとおっしゃられたのですよ時間がありません、先方を待たせるわけにはいきません」と嫌味を言った。
「茉莉果、今夜はディナーの席を用意してある。柏原くんに場所を伝えておくから連れてきてもらいなさい」
「はい……お父様」
「茉莉果、これ」
お母様は、申し訳なさそうに怪しげな布に巻かれた物を私に手渡す。
「お母様収録頑張ってくださいね」
すると、すぐに両親と陽子さんは足早に屋敷を出ていってしまった。
なんであんな女の言いなりになるのかしら!



