「茉莉果ああぁぁぁぁー!!!!!」


そんな優雅な午後の一時を、全てぶち壊す程の大声が邸宅内に響き渡る。


このお腹から出されるようなアルトボイスの持ち主は……


「おっ……お父様?」


柏原を責めるように見つめると、開き直った態度の執事がため息をつく。


「"連絡"はございませんでした。茉莉果お嬢様、ご両親のお出迎えをなさってください」



「茉莉果はここかあああああぁぁっぁっ!」


ティールームの扉がバンっ! と弾かれて、壁にかけられていた薔薇の細工がされた鏡が揺れる。




「お父様っ!!!」

そんな乱暴にしたら屋敷が壊れちゃうわよ!


「茉莉果ああああぁぁぁ~! 会いたかったぞ!!!!」


強引にガシッと抱き締められて、久々の再会。

お父様は、世界的に有名な作曲家だ。

今日も、多分空港から直接帰宅したのだろう……濃紺のジャケットは異国の香りがする。




だけど苦しいわ……


お父様は、中年にしてはいい体格をしている。背も高く中年太りとは程遠いスタイルで作曲家には不必要な引き締まった筋肉が自慢なのだ。

『男は、力で勝負』が座右の銘であるとかないとか……


「茉莉果、こんなに大きくなって……」

スリスリと頬を寄せ涙ぐむお父様だけど、一つ言わせていただけば数か月前、お父様が旅に出てから身長は変わっていないはずよ。