隣の席の子が話しかけてきた。彼女の父親は清涼飲料水の最大手メーカーの社長だ。


「茉莉果さん、音楽祭には我が学園の代表としてお父様とお母様もご招待されるという噂は本当ですこと?」

「えっ?」

慌てて資料から目を離すと……期待を込めた眼差しは隣の彼女からだけではなかった。



「キャー紫音様のお母様の演奏が聴けるなんて最高!」


いいえ、呼ぶなんて言ってないわよ!


「まだどこにも発表していない曲の披露とかはないのかしら?」


「なんて素敵なのー! さすが紫音代表。茉莉果さんが代表で本当に良かった」



だから、呼ぶなんて私は一言も……



「全校生徒、とても楽しみにしていますよ! 紫音代表」




うっ……


令嬢って、あまり人の意見に耳を傾けないのね……

私は違うけど……


「わかったわ。話してみる……」





「きゃー!」

「楽しみー!」







『────茉莉果、本当に信用できる人が一人いれば貴女は強く生きれるわ。残念だけど私はずっと貴女の側にはいられないのよ』





雨は降り止む事なく、灰色の世界を作り上げていた。

そんな日は、酷く憂鬱な気分になるんだ。