「そこの角曲がって」

店から50Mほど進んだところ。そこの角を言われるがままに曲がった。

「あっ」

駐車場らしき草むらに、車が5台ほど停まってる。

その周りにはずいぶんな人の数。危ない人の集まりとかじゃないの?

「危ないから、あっち行きませんか」

凌平さんの袖を引っ張る。なのに、凌平さんはそのままズンズン進んでく。

「ダメです!凌平さん!」

引っ張っても引っ張っても、歩いて行っちゃう。

袖をもう一度ギュッと握ると、その手の上に凌平さんの大きな手が重なった。

「大丈夫だよ」

そういって彼らに近づく。危ないと思って身構えると、

「おかえりなさい」

の声。聞きおぼえがある声。それが車の中から降りてきた。

「心、さん」

「うっわー、ずいぶんひどい化粧されたのね?油分が無駄に多いだけの化粧品じゃない」

力が抜けた。砂利にへたり込んでしまう。

「迎えに来たのよ、みんなで」

「みんな?」

みると心さんの後ろにはお兄ちゃんの姿がある。

「さて、帰ろっか」

何もなかったかのように、凌平さんが車に乗り込む。

「この人たちって?」

お兄ちゃんの手をつかみ、ゆっくりと立ち上がる。

「あぁ。凌平の昔の仲間だとか後輩。協力してくれたんだ」

そういってから頭をかき「俺、なにも出来なかった」と呟く。

「でも迎えに来てくれたよ?」

思ったままを口にする。後部座席に座り、さあ出発というところで声がした。

「誰だ、お前たち」

走りながら怒鳴ってる。みつかった。

「ど、どうしよう。捕まったらあたし」

一人オロオロしていると、凌平さんが「車出すよー」と呑気な声でいった。

「でも、あの人が」

窓の方に顔をくっつけるようにし、外の光景を見送る。

「大丈夫。あいつらに任せておけば」

あの場にいたみんなを置いてきてしまった。お礼も言えてないのに。

「あとで報告はさせるから平気だよ」

鼻歌交じりにそう返される言葉。

「いいのよ、何も心配しなくて」

心さんがあたしの頭を撫でる。

「だって会ったこともないあたしのために、ってことでしょ?」

「まぁね。でも、いいんだって。ねぇ?」

そう凌平さんに声をかける心さん。

「うん。問題ないから」

車が店があった場所から、どんどん離れていく。

鼻につくベトベトした化粧品の匂い。気持ちが悪い。

「あとできれいに落として、ケアもしてあげるわね」

心さんが手を繋いでくれた。助手席にいるお兄ちゃんもすこし微笑んでる。

大丈夫っていうけど、本当かなって疑いたくなる。

だってこの先どうするの?って思わずにはいられない。