「ナオトやパパさんのことは書かないの?」

そう。これが、順番が逆というもので。

「あー、多分」

苦笑い。正直、二人に関しては作文にと思っても、何も浮かばない。

散々お世話になっててそれはないよね?

「ふぅん」

意味ありげに横目でみられ、思わず目をそらした。

「学園祭の時にね、マナに話したいことあるの」

「あたしに?」

「そう、マナに。ちゃんと聞いてもらえると嬉しいな」

「わかった」

何も考えず、ただ頷いた。

心さんには、同性だからなのかな。あまり敬語になれない。

年上なのに、結構崩して話すことも増えた。あまりいない友達の一人。

お兄ちゃんの彼女っていうのも大きいのかもしれない。

「ちゃんと聞いてね、わかってる?」

「わかってますよー」

いつになく念押ししてくる心さんに曖昧に返事を返すと、手をギュッと握って。

「本当にちゃんと聞いてね」

真剣な目をした。

「……うん」

気圧されるように頷く。すると今度こそ安心したように「よかった」と笑う。

(なんの話なのかな)

明るい心さん。ちょっと意地悪な心さん。お兄ちゃんに甘える心さん。

いろんな心さんをみてきたけど、こんなに真剣なのはなかった。

心配になる。あたしが心配したところで何もできない。分かってる。

それでも無駄な心配をしてしまうのは、きっと性分だろう。

(損してるって言われそうな性格だよね)

冷めかけた紅茶をすすり飲み、ペンを持つ。

「じゃああたし、帰るわね。作文頑張ってね」

玄関に向かう心さんに小さく手を振って、あたしはまた原稿用紙とニラメッコをする。

 小一時間ほど経っただろうか。とりあえずでノートに下書きをしたあたしは、伸びをする。

「んんーっ」

玄関でカタンと音がした。

「お兄ちゃん?帰ってきたの?」

急いで向かった玄関にいたのは、ずっと会えずにいて、でも会うのが怖かった人。

「ママ?」

腕には包帯。すこしだけやつれた顔のママが怒りを露わにして、仁王立ちしてた。

「元気そうでなによりね」

なんていいながら。