一万円を受け取り、伊東さんが車を出しに行った隙に会計を済ます。

「これ、サービスね」

店員がくれたのは、すごく小さなきんちゃく袋。

「アクセサリー入れるのに使ってね」

そう言われてすぐ、ポケットからあの指輪を取り出す。

「あぁ、そうそう。こうやって……ほら、ね」

あたしの指輪を袋におさめてくれる。

「傷つかなくていいよ、これ」

手のひらの載せられた小さなきんちゃく袋を手のひらで包み込む。

そのまま胸に拳を抱くと、「そんなに喜んでもらえてうれしい」と笑う店員さん。

「ありがとう」とお礼をいい、車に向かった。

「そんなに楽しかったの?僕との買い物」

その言葉に横を向くと「いい笑顔だったから」と伊東さんが言う。

「そ、そんなこと」

しどろもどろになりつつ、熱くなった顔を手のひらで押さえた。

「可愛いよ。そうやって笑うマナちゃんは、僕の自慢の娘だ」

あたしよりも嬉しそうに笑い、車はゆっくりと動き出した。

そっとポケットを手のひらで押さえる。確かに指輪がそこにある。

(好きって言われたからなのかな)

会えなくなってから、思い出す時間が増えた。

自分が凌平さんに対して抱いてる思いが、どんな思いなのかわからない。

わからないけど、でも……気になる。それだけはわかった。

つけられない指輪。自由にならない時間。

窮屈さをすこしずつ感じれば感じるだけ、生まれてくる焦れったさ。

たくさん会えば、こういう気持ちって薄れるのかななんて思うものの。

(こういう感情って、慣れてないからなぁ)

小さくため息をつき、窓の外を眺める。

(あ、いた)

一瞬、見えた。

(凌平さん、笑ってた)

露店で働いてる姿が見えた。

ほんの一瞬みえただけなのに、胸の奥はチリチリと痛む。

(声聞きたいな)

バッグの中には、凌平さんから借りたままの携帯。

何かのために自分から動くことがなかったあたし。

(笑うかな、メールなんかしたら)

伊東さんが話しかける声に、曖昧に返しながらも頭の中は、最初になんて打とうということばかりだった。