「凌平くーん」

露店の方から呼ぶ声。その声にハッとする。

「あ、じゃあ」

踵を返し、頭を下げつつその場を離れた。

「マナ!」

数歩歩いたところで、後ろからつかまれた手首。

半身だけ振り向くと、「また会おうね」の囁き。

そのまま腕を引かれ、凌平さんに抱きしめられていた。

何が起きたのかと固まったのは一瞬だけ。

まばたきをするくらいの時間だった。気づけば腕は解かれ、凌平さんは露店に向かって歩き出してた。

幻だったのかと思えるような時間。

そこから動けずに、女の子に囲まれている凌平さんをみる。

「……あんなに賑やかなのに、寂しいの?……嘘だよ、そんなの」

自分と比べて、自嘲気味に笑う。ふぅと息を吐き、一歩歩き出す。

指に光る指輪がどこかに連れて行ってくれたらいいななんて、曖昧なことを思いながら歩いていた。

 マグカップの新しいのを買うことにした。あとは、クッション。

「マナちゃん、これなんかは?」

買いに来たあたしより楽しんでる。

バス用品のシャンプーのボトルを手に、楽しげに笑う。

「あ、可愛いですね」

かえるにウサギ、あひるの模様がついてるボトル。

「華やかだよね、女の子の世界って」

女の子だらけの店内を見渡し、頬を緩める伊東さん。

「ピンクとか多いですから」

苦笑しつつ、「じゃあ、これも」とウサギのシャンプーボトルをかごに入れた。

「あ」

隣の棚に、赤い箱。小さな赤い箱。

「ジュエリーボックス」

POPを声に出してみて、反射的にポケットに触れてた。

あの指輪をしまっておくのにいいかもしれないって。

「それも欲しいの?」

赤い箱を見て、伊東さんが照れている。

「どうしたんですか?」と聞けば、「指輪をそんなに大事にしてくれるなんてね」と返ってきた。

そうだよね。今、あたしの指には伊東さんとお揃いの指輪が光ってるから。

「可愛いなって」

「うんうん、買ってあげるよ。これも」

三人で作った指輪を入れたかったのに、それは叶わなくなった。