「この指?」

うんと頷き、指輪をゆっくりと填めてくれる。

「この指は、今のマナには合う指って思いたいな」

「どうしてですか?」

根元まで填められた指輪。手を掲げ、指輪が光るのを見てた。

「自分の願望を実現したい時とかにいいんだって。方向を指し示す指ってさ」

「方向」

「うん。マナがどっちに行きたいのか、背中を押してくれるといいんだけど」

背中を押す、か。あたしは行きたい場所があるんだろうか。

ママとはあれから会ってない。でも会ってもきっとダメなんだろうとも、どこかで諦めてる。

伊東さんとは、自分でもどこか壁を作りつつも関わり続けてる。

お兄ちゃんに、心さん。二人とは悪い関係じゃない気がするし。

順調といえば順調。

(でもなにかしたいことがあるわけでもない。何か……が、なさすぎる)

それは逆に寂しく思える毎日。

「ありがとうございました」

ペコリと頭を下げると、盛大なため息が聞こえる。

「あのさ」

顔を上げると不機嫌そうな凌平さんが呟く。

「俺って、そんなに距離おかれなきゃいけない関係なの?」

「距離?」

そんなつもりはないけどと、ジーッと見つめる。

「敬語ばーっかだしさ、なんか意識もしてもらえてないし」

「意識って」

「俺言ったと思うけど」

何か言われたっけと記憶を辿るけど、よくわかんないや。

「好きって言ったよ」

あぁ、あれか。でもあの場の雰囲気が男女間の好きって感じがしなかった。

「人としての好きだと思ってて」

ごまかすように笑いつつ、そう返す。

「冗談じゃなかったし、ただ、人としてのマナに向けたものじゃないって」

また盛大なため息を吐き、あたしの頬にソッと手のひらをあてる。

「え?な、なんですか」

ひんやりした手のひら。触れた場所から、熱くなってくる。

恥ずかしいのもある。向こうで女の子たちが見てるのがわかるもの。

それよりも、違う理由がある。

「好きだよ、俺は。マナのこと、女の子としてね」

まっすぐに、気持ちを伝えようという意思のあふれる瞳。

目をそらせるはずがない。そらすことは、凌平さんの気持ちを無視するようで出来ない。