「どう?あれから」
「あー、はい。学校には行ってます。仕事は探してるところで」
「……まただし」
「え?」
携帯灰皿にタバコを押しつけ、「ヤダってば」と続ける。
「さっきから一体なんなのかわかんないんですけど」
背の高い凌平さん。
目線を思い切り上げて見上げれば、「寂しいよ」と薄く笑う。
「寂しい?凌平さんが?」
露店の方に目をやれば、さっきの女の子たちがこっちをみてた。
「あんなに賑やかなのに?」
この人の雰囲気は、人を集めるだろう。
「寂しいわけないじゃないですか」
羨ましく思い、彼女らを眺めつつ素直にそういったのに。
「あの子たちじゃ無理だよ」
そういいながら、ポケットから小さな透明の袋を取り出した。
「はい、約束の指輪」
あたしの手のひらにソッと乗せたそれを、あたしは袋から出す。
「どの指につければいいのかな」
あの薄紫の石が付いてる。可愛い。あの粘土がこんな風にピカピカした指輪になるんだ。
「ね、マナ」
「はい?」
「好きな男、いる?」
急な質問は、自分にはありえないこと。
「そんなこと聞かれても」
ドキドキする。質問の内容だけじゃなく、凌平さんがいつになく真剣な目で答えを待ってるから。
「もしも、で、いいから聞いて」
「あ、はい」
あたしの手から指輪を奪い、あたしの右手を取る。
「ここ、右手の薬指。もしも好きな男が出来たら、ここにしてよ」
「左じゃなく?」
「うん。好きな人がいます……の、証」
「それでいるの?いないの?」
すこし考えてみても、誰も浮かばない。
周りにいる男の人を思い出す。クラスメイト。あとは、お兄ちゃん。
顔を上げると、凌平さんの視線とぶつかった。
(…………凌平さん)
一瞬だと思う。時間が止まった気がした。
吸い込まれそうな色素の薄い目。茶色の髪。
「マナ」
柔らかく呼ぶ声。
「……俺のこと、好きになってくれたのかな」
その言葉にハッとする。
「な、ない!違う!」
勢いよくいうと「残念」と笑う。そして、今度は左手を指す。
「じゃあね、サイズ合うかな。……ここ」
示したのは、左手の人差し指。

