「なにかお揃いのものがあったら、買おうね」
「あ、はい」
圧される感覚に付いていけなくなってたあたしがいた。
ゆるやかに時間は流れていく。
すこしずつ馴染んできた、溺愛される毎日。
お揃いの指輪を欲しがり、それをつけていてほしいと言われた。
親子でお揃いの指輪ってと思いつつ、あたしはそれをつけて学校に行く。
特別うるさくはないので、外すことはない。
「これ、見つかったら怒るよね。伊東さん」
伊東さんに言えないことがひとつある。
ポケットに忍ばせた指輪。あの日、三人で作った指輪だ。
伊東さんがコンビニの本社に行かなきゃ行けなかった時に受け取った。
「あの日以来会ってないや」
その日を狙って、指輪を受け取りに行った。
凌平さんが仕事している露店。そこに行くと、女の子が群れていた。
「マーナー」
あたしを見つけると大きく手を振って、「ごめんね」と女の子たちにいい、走ってきた。
「忙しいところすいません」
頭を下げると、下げた頭の後頭部にまた痛みといい音が。
「なんで叩くんですか」
擦りながら体を起こすと、「ヤダ」ってまた子供みたいなセリフ。
「何がですか?」
「遠いんだもん」
相変わらず不思議なことを口にする人。
「つまんないってー」
口を尖らせ、タバコを取りだす。
「あれ、吸うんですね」
初めて見た。
指先に挟んだタバコから、白い煙が空に昇って消えていく。
ぼんやりとその煙を目で追う。すると目の前が一瞬暗くなった。
「ん?」
顔を覗き込むようにしてる凌平さんの姿。
「なっ、何してんですか」
「妬けちゃうって」
拗ねた顔。お兄ちゃんより年上だって聞いてるのにな。
「何に妬けてるんですか?」
そう聞くと、宙を指す。
「何もないですよ?」
その指先を目で追えば、「煙」といい、また大きく吸い込んだ。
大きく吐きだされた煙をまた目で追うと、「ほらね」と笑う。
子供みたいな人。
最近緊張してること多かったから、こういう緊張が解ける感じって嬉しい。

