「理由がどうであれ、一瞬でも俺のこと信じてついてきたんじゃないの?ただ流されたんじゃなく」

そうじゃない、違う。

多分諦めたんだ、これ以上も以下もないんだろうって。

自分の身内からあんなことされて、これ以上の悲しみはないだろう。苦しみもないはず。

「好きって……あたしに、なにかしたいんですか?」

涙がひとしずく。

さっきママといた男の人を思いだした。

男の人が好意を持っていたら、きっと体を求めるんだろう。

「でもあたしの体、もう汚いんです。……ごめんなさい」

そういうと、静かに、でもどこか怒った声で、

「さっきの男?」

と、さっきと同じことを聞く。

どうせ諦めていること。お兄ちゃんにじゃなく、この人に話したところできっと何も変わらない。

「違う」

何も変わらなくても、どうせ吐き出すなら、誰も傷つかない相手にならいいよね?

ゆるく首を振って、頬笑みながら話をした。

「ママに、汚されたんです」

「ママに?どういうこと?」

ずっと笑ってるあたし。上手く笑えてるかな。

今までママやパパに怒られないために笑い続けてきたから、きっと笑えてるよね。

「脱がされて、なにか棒状のものをママに入れられたんです。大人にしてあげるって」

のどがカラカラになってきた。でも言葉が勝手に続いてく。

「言ったんです、邪魔でしかなかったって。不要……って」

凌平さんて人は、ずっとあたしをまっすぐ見てる。

ちゃんと聞いてくれている。

「それ以前に捨てられたようなものだったんです。再婚しても置いていかれて」

「……うん」

「不要って言われて、自分が要らないことが悲しくなって。だから死のうとしたんです」

あの時の光景がよみがえる。きれいだった街の明かり。

「それは中学生の時で。でもお兄ちゃんと伊東さんに助けられた。けど」

けどと言いかけ、宙を眺める。お兄ちゃんとたくさんいろんなことを話した時間が、今は切ないと思える。

「そうして差しのべられた手も、嘘だったみたいだし」

そうあたしが言った時、ふぅ……とため息が聞こえた。

「それで?今はナオトもナオトのオヤジさんも信じられないってこと?」

改めてそう聞かれて、正直迷う。

「嘘つかれたのかもって思っても、本人に聞けてないし。だから、わかんないんです。ただ……」

「ん?ただ?」

「今は、会うのが怖い。どんな顔して会えばいいのか」

笑ってるはずなのに、手が震えてる。

その手に凌平さんて人が、手を重ねてきた。

「どんな顔も何もないよ。家族なんだろ?」

っていいながら。