「だからさ、ママって呼んでた人と一緒にいたけど様子がさ」
なにか違う気がした。
「それだけで、他人のことに首をつっこむこと出来るんですか」
水分を取っただけで、喉がずいぶんなめらかになる。
「だってさ、様子がね」
言いよどむってこういう感じなんだろう。
この人も、あたしに、
「隠さないで話してくれませんか」
嘘をつこうとしてる。ごまかそうとしてる。
「マナ」
「なにもないんです、あたし。信じていいモノも人も場所も。これ以上傷つかないから、隠さないでいいです」
そうだ、すべてを失ったって思ってもいいんだもの。
伊東さんとお兄ちゃんは正真正銘の親子。
親が決めたことに従うのは当然だもん。
あたしがママに従って生きてきたのと同じように……。
もしもそうじゃないとしても、実の父親に逆らってまであたしの味方をするようなことはないでしょ?
「なにもないってことはないんじゃないのかな。少なくともナオトはマナのこと、大事にしてると思うけど」
こう言ってくれてても、結局は第三者。
ううんと首を振って、「教えてください」と繰り返した。
お手上げといったジェスチャーをしてから、「あのね」と切り出す。
手のひらでしっかりとペットボトルを包み、ギュッと力を込めた。
「嫌なだけ」
短すぎる言葉に、ポカンと口が開いた。
「え、何が?」
思わず返すと、
「人が死んじゃう気配がするってのが」
と即座に返してきた。
「俺の友達の妹がいてさ。間違いないって確認までして、それで様子がヘンって。ほっとけると思う?」
当たり前のように言われても、あたしにはそんな感情は理解できない。
「俺ね、ぶっちゃけ君の苦しみはわかってやれない。ごめん」
この人はつくづく不思議なことをいう人だな。
あたしの痛みはあたしにしかわからない。当然だ。
「謝る必要、ないです」
そっと首を押さえる。あの日からずっと胸には小さなしこりがあるままだ。
「あたしは今までもこれからも、ずっと独りだから」
だからきっと理解なんかされない。興味も持たれないって思った。
僻みなんかじゃなく、事実だ。
(そうだよね、ママ)
心の中で確かめるように呼ぶ。
だけど、たった一言で一蹴される。
「バカ」
たった二文字で、あたしの一言はなかったことにされるんだ。

