ふわりと柑橘系の香りがする。

「夢みてたの?」

顔を横に向けると、涙が目尻からこぼれた。

「何か飲む?」

「……うん」

さすがに何か飲みたくなった。

「これ」

背中を支えられ、体を起こすと一本のペットボトルが渡された。

「好きだよね、これ」

驚いて思わず目を見張った。これはあたしが好きなレモンティーだ。

こくんと一口飲めば、乾ききってた体に浸みこんでいくのがわかる。

「ナオトから聞いてた、好きなメーカーだって」

その名前に体を強張らせると、頭を撫でてこういう。

「ナオトと会いたくない理由、聞いちゃダメかな」

話してもいいものなのかな、まだ不確かなことで悩んでいることを。

「マナはナオトのこと、嫌いなの?」

しばらく考えて、また首を振る。

「じゃあどうして会いたくないのかな。ナオト何かやったの?」

“何かやった”

お兄ちゃんになにかされたかといえば、逆だよね。きっと。

あの出会った日から、お兄ちゃんはあたしに近づこうとしてくれた。

あたしの痛みに近づこうとしてくれてた方だ。

伊東さんも、お兄ちゃんと同じかそれ以上によくしてくれた。

でも、ママはハッキリ言った。

あたしの生活の変化のことを、伊東さんから聞いたって。

そして、ときどき家の様子をみてくるお兄ちゃんは、ママが普通じゃないかといった。

直接なにかされてなくても、嘘をつかれているという気がしてる。

それだけで距離を置いてはいけないのかな。

「マナ?」

でもその前に、気になることがもうひとつある。

「あの」

「んー?」

ソファーであたしの横に腰掛けて、ニコニコしてる凌平さんという人に聞く。

「どうして、どうやってあたしをあの場所から連れてきたの?」

あの場所で死ぬんだろうって思ってたあたしを救ってくれた人。

「どうして?」

その理由もなにもかもを知りたかった。