何か、音楽が聴こえる。
その隙間で、誰かが泣いている。
あたしは水の上を歩いてて、一歩歩くたびに波紋がポーーーンと広がっていく。
空の青。
水の中に映り込んでて、空の中を歩いている気分だった。
音楽が止んで、立ち止まった刹那、
(……?)
不思議に思い、空を見上げた瞬間、ガクンと沈んでいく体。
水の中に引きずり込まれていく。
歩いていたのは空の中のような場所だったのに、沈んでいく先には、青なんかなくってただ……、
(黒……ぃ)
薄暗いというのもなく、ただ黒い水の中。
どこまでも、どこまでも引きずり込まれていく。
どこまで行くの?息継ぎが出来ない。
苦しいよ……。お兄ちゃん、苦しいよ……。
さっき見た空、もう一度あの場所に帰りたい。
水の中、自分が流していく涙が一緒くたになっていく。
黒い水と自分の涙が変わらなくなっていく。
このまま黒くなっていくのかな。
あたし、もう……あの空の中には戻れないの?
嫌だ……。
もう一度見せて、神さま。
さっき見た、あの青。
深呼吸だってしていない。
どんな匂いだったのかも知らない。
春の空気だったのか。
冬の空気みたいに、シンとした、でも気持ちのいい空気だったのかも。
それに、普通の呼吸すらしていない。
手も伸ばしていない。
あの空に向かって、思い切り伸ばしてない。
「空、返して」
涙が止まらない。
こんな黒いだけの世界にいたくない。
どこまで続くのか分からない、底が見えない場所になんて行きたくない。
そんな場所で……生きたくない!
「助け……てぇ……」
誰かに向かって手を伸ばす。
もう、空の青なんか見えなくなっているのに。
届きやしないって分かってても、伸ばさずにはいられなかった。
目を開けると、さっきの空はもちろんなくて。
「マナ?」
白い天井があって、あたしの顔を覗き込む凌平さんて人の顔があった。

