「大丈夫。何もしないから、俺」
そういい微笑む。
ゆっくりとまた動きだした車。
車の時計を見ると、夜の十一時過ぎ。
「本当に病院行かなくていいの?」
行ったところできっと聞かれる。火傷の痕に、殴られたり蹴られた痕。
それをどうごまかすかなんて、浮かばない。
また首を左右に振ると「そっか」とだけ返ってくる。
「ナオトに会うの、嫌なの?」
嫌というのか、怖いというのか。お兄ちゃんにまだ何もされていないのに、会っていいのかわからない。
「わかんな、い」
声が震えてしまう。
「そっか」
車内が静かになった。ふと俯くと、自分のしている格好がすごいことに気づく。
裸にカーテンを纏い、胸からお腹辺りまでに掛けられたジャケット。
体はアチコチ痛む。
車に揺られてたら、ムカムカしてきた。
何も言えずに窓に顔を向けたまま、口元を押さえる。
ダメ、吐いたりしちゃ。誰かわからないけど迷惑がかかる。そう思った。
堪えていると、どんどん哀しくなってきて涙が溢れた。
吐きたくてなのか、泣いてるからなのか、肩が上下してしまう。
苦しくなってくると、意識がぼやけてくる。
意識が飛びかけた時、肩を掴まれた。
「ちょっと、大丈夫?吐きそう?車停めようか」
ううんと振り向くこともなく首を振る。
(ダメだ。誰も信じちゃ、頼っちゃダメだ。迷惑かけたらダメ)
自分をどんどん小さく狭くしていく。
きっとそうすれば生きていける気がした。
誰の邪魔にもならずにいられれば、生かしてもらえるんじゃないかって。
いろんな苦しさに涙が止まらない。
また意識が落ちると思った瞬間、車が急停車して、大きな音がした。
振り向くと隣にいたはずの人がいない。
それを確かめた刹那、寄りかかってたドアがガクンと開きそのまま車外に落ちかけた。
引力のまま落ちそうになった時、力強く支えられる。
「こっちおいで」
落ちかけたあたしを抱きかかえ、数歩歩いたところで背中をさすりながら、
「泣くのも吐くのも我慢しちゃダメなんだよ」
どこか怒りを含んだ声で、囁いた。

