どこに連れて行かれるの?

ママに暴行されて、哀しい過去を聞いて、独りになって。

それでもまだあたしは何かの罰を受けなきゃいけないの?

体がブルッと震えた時、何かが動いた感覚。

目を閉じててもわかった。

(あたしに何か掛けてくれた?)

どうやら助手席らしい。

真横から腕が伸びてきたようだった。

声がしてるのは一人だけ。なんとなくだけど、他に気配がない。

あたしに何かを掛けてから、また話し始めた。

「あ、あぁ。大丈夫。んー?あぁ、うん。とりあえず俺んち運ぶ」

すこしだけ低めの声。柔らかい話し方。

誰?この人。周りにこんな声の人いないし。

「オヤジさん連れてくるのか?ナオト」

その名を呼んだ瞬間、不思議なことに腕が動いた。

感覚だけで、誰かの腕をつかんだ。そして、目が開く。

「え?」

驚く声。そして、ゆっくりと車が停まった。

「ちょっと待て、ナオト。あとでもっかい連絡するから」

携帯をパクンと閉じて、携帯をダッシュボードに置いた。

「大丈夫?病院行く?」

言葉は好意的な言葉なのに、お兄ちゃんの知り合いらしいと思っただけで怖くなった。

もしかしたらこの人も、あたしを壊す人?裏切るための誰か?って思いたくなる。

「だ、れ?」

かろうじて出た声。

「あ、あぁ。うん」

声が低くなってる。体中の水分がなくなってる感覚はまだある。

「なにか飲む?」

ううんを首を振る。そしてもう一度「誰?」と聞く。

ややしばらく間が開いて、ゆっくりと「凌平」と名乗った。

「りょうへ、さん?」

声が上手く出ない。お腹に力が入らないし、喉が乾いてるし。

「うん、凌平。ナオトの友達」

お兄ちゃんの知り合いなのか、やっぱり。

でもなんであたし、この人に運ばれてるの?

というか、あたしのこと知ってる風。

「病院行こうか?」

ううんと首を振る。

「じゃさ、ナオト呼んでもいい?」

自分が立てた予想が頭によぎる。

やや間を開けてからまた、首を左右に振る。

「マナ」

名を呼ばれて、体が硬直した。

「体、大丈夫ならさ。……俺んち連れて行ってもいい?」

真意がわからないけど、どこか諦めたように頷いたあたしがいた。