夢じゃない。嘘なんかじゃない。

あれは現実に起きたことなんだ。

「ママ、に……犯され、て。それ……から」

腰に背中にと響くような鈍い痛みが残ってる。

その痛みは生きている証。

けどその証は、本当に現実なんだという証でもある。

「うっ」

さっきお腹を蹴られたからか、急激な吐き気をもよおした。

裸のままトイレに行き、胃の中のものをぶちまける。

涙と鼻水と嘔吐物と……。

口や鼻の中が、よくわからない匂いになってく。

「うっ……うえぇぇぇぇ」

その匂いにつられて、何度も吐く。

胃液しか出なくなっても、吐き気はなかなかおさまらなかった。

吐くという行為。それは、体温を奪われる行為でもある。

散々吐いて、冷たい床に座ったまま放心してた。

トイレの床も冷たくて、さっきよりも体が急激に冷えていくのがわかる。

カタカタと歯が鳴り出す。

寒いということがわかるってことは、あたしまだ生きてるんだななんてくだらないことを考えてた。

このままここにいても、裸で出ていけるはずもない。

食事も取らず、このケガでいて。

(きっと死ぬんだろうな)

そうなるとしか思い浮かばない。

「いっそ、さっき……ママの手で」

殺してくれてよかったのになんて、チラッとよぎった。

味方だと思ってた伊東さんが、実はママ寄りだった事実。

こんなにも愛されていないあたし。

それだけでも死にたい理由には十分じゃないのかな。

きっとママに殺してって言っても、こういうに違いない。

「そんな面倒なこと嫌よ」

自分の手は汚さず、自分は関係ないわっていいながら、希望を叶えようとするんだろうね。

伊東さんを一馬さんといい、信頼してるようにも取れる。

でも、あの男の人って?お客さんっていうだけの感じがしなかった。

もしもそうだったら、伊東さんは許してくれるの?

けど……今、ママは、

「伊東さんがいて、幸せ……だから、あたし、邪魔……で」

そういう方程式が成り立って、あたしを消したくなった。

あたしと一緒にじゃなく、自分だけ幸せになりたくなったんだ。

「……ママ」

呼んでも聞こえるはずがないのに、何度も呼ぶ。

「ママ……、ズル、イよ。そんなの」

ママが今の状態を維持したいのと同じで、

「あ……たしだ、って、普通に笑ったり……した、い」

カタカタ体が寒さに震え出す。

歯がかみ合わなくなった。