体が急激に冷えていく。指先が冷たい。
誰か知らない人が運転する車に乗せられ、見覚えのある道を走っていく。
「……どこ、行くの?ママ」
助手席にいるママにバレないようにと、お兄ちゃんに電話をかけた状態で聞く。
さっき通話って画面に出たもの。多分、大丈夫。
(お兄ちゃんなら、気づいてくれる)
そう思いながら震える声で聞くと、「お楽しみにー」とか楽しげに返してくる。
ずっと笑ってる。車内には、ママの好きなアーティストの曲が流れている。
「椿ちゃん、こっちだっけ」
椿とは、ママの店での名前。ってことは、お客さん?
「そうよ。そこの先にある止まれの標識を右に曲がってすぐよ」
指示した先にあるのは、「あ」と思わず声を上げた場所。
「久しぶりでしょ?来るの」
あたしが一人で暮らしてた場所。あのアパート。
「ほら、早く降りなさいよ」
引きずられるように腕を絡められつつ歩く。
夕暮れ。誰も関わらないようになのか、こっちを見もしない。
お兄ちゃんは気づいてくれただろうか。
顔だけ振り向くと、たった一人だけ、男の人がこっちを見てた。
縋る思いで見たものの、すぐさまママがあたしの頭の向きを戻す。
「どっち見てんの?あんたが助けてと言ったところで、そんな気の利いた人間がいるわけないでしょ?」
今ある現実に引き戻す言葉をくれた。
「……うん」
お兄ちゃんが万が一気づいたところで、法事の最中。どうしようもない。
大人しくママに連れて行かれるがまま、元いた場所に入る。
「ちょっと蒸すわね」
窓を開け、換気をするママの姿。離れる前にはよく見てた姿だ。
入り口にさっきの男の人が立ってる。
「言っとくけど、逃げようだなんて思わないこと。っていうか、逃げられなくなるけどね」
クスクス笑って、
「脱ぎなさいよ」
そういいながら、あたしを指さした。
「え?」
「早く」
「え、何、言って」
「脱ぐの。それとも、なぁに?高校生にもなって、自分で着替えも出来ないの?」
ゆっくりと近づくママ。
「出来る!出来るけど、だって」
いいながら、入り口の男の人を見る。
「あぁ、気にしなくていいのよ。あんたの裸に興味なんかないから、彼」
そうは言われても、男の人の前で脱いだことないし。
お兄ちゃんと暮らしてても、お風呂に入る時にはお互いに脱衣所で着替えるし。
「……あぁ、もう。じれったい!」
ママがスタスタと歩いてきて、裾を乱暴に掴んでそのまま、
「はい、ばんざーーーい」
上に捲りあげた。
「きゃあああっ」
ブラだけになった上半身。
「次は下ね」
剥いだ服を床に放って、さらに近づくママ。
「やだ!ママ、止めて!」
そういったところで、ママの足が止まることはない。

