伊東さんが家に入ってきて、最初に見たのはお兄ちゃんの笑い転げてるとこ。

「やっ!笑わないで!」

普通に困ってただけなのに、そんなに笑わなくたっていいじゃない。

「悪い。で、でもよ、なんでそれっぽっちのことで泣きそうな顔になって……くっくっく、あははは」

「ホントに困ってたんだもん」

「なんだ、ナオ。マナちゃんを泣かせてるのか」

「違うって、オヤジ。……あ、ドライバーある?」

それを聞き、あたしを見て、「あぁ」と頷く伊東さん。

リビングに戻ってすぐに、「僕が組み立ててあげるよ」ってあたしの横に座った。

「すいません」

ペコリと頭を下げると、お兄ちゃんがまた拳をコツン。

「え?なんで?」

聞き返すと、こういった。

「そういう時は、すいませんじゃなく、ありがとうって言えばいいんだぞ」

とても新鮮な言葉。

パパやママにはありがとうって言っても叱られてた。

「ありがとう?」

「そ、ありがとう」

満足そうにそういって部屋を出て、リビングで食器の片付けを始めた音がした。

「あの」

「うん?なんだい」

あっという間に形になっていくカラーボックス。

「その」

目が合うと言えない気がして、少し視線を外してから小さな声で呟く。

「どれもこれも……その、感謝、してます」

ありがとうって簡単にいえばいいのにな。

緊張しちゃって、堅苦しいものになっちゃった。

「わかってるよ、大丈夫。ちゃんと伝わってるからね」

ニコニコして、最後の板にねじを差し込んでいく。

「あとはね、このシールをねじの上から貼って目隠しするだけ。それは出来るだろう?」

「はい」

「じゃ、また困ったら呼ぶんだよ。……ナーオー」

「なんだよ」

お兄ちゃんを呼びながら、リビングへと消えていった伊東さん。

これで一つ、自分の部屋のモノが出来あがった。