「後はオヤジがこっちに来たらおしまい」
「そっか」
落ち着かない。
「ソファーに座ってればいいだろ?」
「あ、うん」
言われるがままに座るものの、なんだか座ってられない。
「どうした?」
お兄ちゃんが不思議そうに聞いてくる。
「あ、えっと」
バカだなって思う。子供だ、すっごく。
時間が遡ってるみたいな高揚感しかない。
「部屋、セッティングしてもいいのかな」
つまりはそういうことで。
「あ?」
「伊東さん来てからじゃなきゃ、叱られるのかな」
俯きがちにしつつ、目線だけ盗み見るように動かすと、肩先だけ震えて笑ってる。
「お兄ちゃん?」
なんかおかしなこと言った?
「ごめんなさい」
意味なく謝る。ママといる時に身についてしまった、とにかく謝るという方法。
「なんで謝ってんだよ、バカ」
まだ笑いつつも、拳を軽く頭にコツンとぶつけてから呟く。
「好きにやっていいんだっての。ここはお前の部屋なんだし」
「いいの?本当に?叱られない?」
「なんで叱られなきゃなんねぇんだよ」
「だって、お金出してくれたの伊東さんだから」
勝手に動くとママに叱られたことを、思い出した。
「金を出したのがオヤジなんだとしてもな、お前がやんなきゃ自分の部屋にならねぇだろ」
そういってから、トンと背中を押す。
「早くお前の部屋みせろよ」
「う、うん!」
まだ笑ってるお兄ちゃんの横を通り、部屋に入る。
まだなにも出来ていない部屋。
これから作る、あたしの部屋。
「んと、最初になにすればいいんだろ」
早く部屋らしくしたいのに、どこから手をつければいいのか悩む。
「そうだ、マナ。ラグをさ」
いいながらラグを運んできたお兄ちゃん。
「……どうしよう、お兄ちゃん」
ポカンとした顔で、あたしを見下ろしてる。
「ドライバーがないと作れないよ、コレ」
ピンクのカラーボックスの梱包を解き、早速困っていた。

