抱きしめた格好のままで、あたしを立たせる。

立ち上がった瞬間、離された腕。

離れてしまった温かさが、やけに寂しく感じられた。

盗み見るように振り向きざまお兄ちゃんをみると、なんでか目が合ってしまった。

盗み見るって出来ないのかな、あたし。

「ほら、行くぞ」

肩に回された腕。

戻った温もりに、自然と一緒に足が出ていた。

単純なんだな、結構。

こんなに簡単に安心しちゃってて大丈夫なのかとか、疑うことがなくていいの?って、頭の端で思う。

けど思うだけで、それ以上どうでもよくなる。

(変なの)

パパやママに対してはなかったと思う。

怖いとか、怒られないようにしなきゃとか思わなくてもいい。

今はまだ……なのかもしれないけど。

「そう。んで、大通りの」

横ではお兄ちゃんが携帯で現在地を知らせている。

「わかった。もうすぐ着くから」

パチンと携帯を閉じ、「急ぐぞ」って笑うお兄ちゃん。

黙ってついていく。

2~3分歩くと大通りに出て、お兄ちゃんが指さす先には伊東さん。

今度はお兄ちゃんも一緒に後部座席に乗り込んだ。

「さて行こうか」

静かに走り出す車。

「どこに行くの?」と二人に聞いても、「着いてからのお楽しみ」としか言ってくれない。

座ってる間も、お兄ちゃんはずっと手を握ってくれている。

二人がやけにご機嫌で、あたしはそんな二人をみながら首をかしげてた。

「下りていいよ」

と言われ、下りた場所はホームセンター。

「買い物?」

「あぁ、たくさん買うものがあるんだ」

早足で大きなカートを取りに行くお兄ちゃんに、まだ首をかしげて付いていく。

「ほら、早く来いって」

伊東さんがあたしの横に来て、歩調を合わせてくれてる。

それは、嫌じゃなかった。一緒に歩くだけなのに、くすぐったくて嬉しく思えた。