「離して!」
グイグイと抱きしめられた腕を押すけど、ビクともしない。
「マナ」
何度も呼ばれる、優しい声。
その声に胸が痛くなる。
離してほしい。離さないで。
ふたつの気持ちが交差する。
「お兄ちゃん」
勇気を出してそう呼ぶと、「んー?」と短く返った声に、こんなにも安心してしまう。
こんなに甘えん坊だったんだ、あたし。
甘えられる場所に餓えてたの?
震えながら、お兄ちゃんの腕をギュッと掴む。
しゃくりあげながら泣くあたしの髪を、そっと撫でる大きな手。
「泣いちまえ」
泣くことを許される言葉に、もっと溢れる涙。
背中にお兄ちゃんの体温。
人のぬくもりって気持ちいい。
震えがゆっくりと収まっていく。不思議だな。
……他人なのに。
どれくらいの時間が経ったのか、お兄ちゃんがあたしを呼んで。
「オヤジのとこに戻るぞ」
そういった。
気持ちは落ち着いたけど、帰りたくないのは変わってない。
「でもあたし」
顔だけ振り向いた瞬間、「ん?」と言ったお兄ちゃんと顔がぶつかりそうになった。
「きゃっ」
「ご、ごめん」
顔が熱くなる。振り向けないよ、もう。
「あ、あのさ」
「うん」
「お前、さ」
「うん」
腕にそえた手に力をこめると、反対の手をあたしの手に重ねてくる。
「もう心配いらないから」
耳の裏から、囁く声。
「だからオヤジのとこ、戻ろうな」
真意がわからない。だけど、なんでか頷いてた。
不思議だな。
……他人なのに。

