あまりにも遅いからと、連れに来た。
「ったく。手のかかる妹だよな」
といいながらも怒っていないのは、声色でなんとなく感じた。
でも、行けない。嫌だ。この時間が終わってしまう。
「もう帰るの?ねぇ」
車に近付けない。
「やだよ。帰りたくないよ」
子供だ。中学生なんかじゃない。
「ヤダァ……」
泣きじゃくってこんなわがまま言って。
楽しい時間をくれた二人を困らせて。
自分がなにをしているのか分かってる。でも、嫌なんだ。
「嫌……っ」
掴まれていた腕を振りほどき、走り出す。
「帰りたくない!」
どこへ行くともなしに、ひたすら走っていく。
遠く後ろから名前を呼ぶ声がする。
追いつかれたらおしまいだ。
まっすぐ走るんじゃなく、アチコチ曲がっては道を戻ったり。
逃げるしかないって必死に走る。
本当に逃げてどうにかなるあてもないのに。
無駄かもしれなくても、走るしか選択肢が浮かばないんだもの。
この胸いっぱいの寂しさを、どう話せばママに伝わる?
聞いてほしい、独りの時間がどんなに寂しくて寒かったかを。
こんな時になっても思い出すのは、ママに対しての一方通行の気持ち。
永遠の片思いだ。
裏道を抜けて、大通りにもうすぐといった場所で、さっきと同じように体が後ろに引っ張られた。
「きゃあっ」
「ってぇー」
その声は同時だった。後頭部に鈍い痛み。
「アゴぶつけちまっただろ!」
片腕であたしを抱きしめながら、反対の手でアゴをさすっている。
「……やっ」
離れなきゃ。あの場所から逃げたいんだ。
「帰りたくない!離して!」
ジタバタ暴れる。
もがいても、腕の力はとても強い。
「マナ」
あたしを呼ぶ声は、怖さなんかない。
でもそれでも、逃げなきゃダメだって言い聞かせる。

