楽しい。あたたかい感覚。
自然とまた顔が緩んでたことに、今度は気づけた。
けど、笑った後に、脳裏に浮かぶこと。
(あの場所に帰るんだよね)
いろんな自分を思い出した楽しい時間が、もうすぐ終わろうとしていた。
「さ、帰ろうか」
時間になってしまった。
のろのろと動き、二人の後を追う。
帰る場所があそこしかないなら、公園で寝泊まりとかはどうかな。
今時期なら、そんなに寒くないよね。
学校は、どうしよう。
きっと受験だってさせてくれるはずない。
(受験、か)
さっきまで死のうとしてたあたし。
生きてしまったばかりに、ある意味呑気な悩みを考えている。
たとえ何かの形で合格しても、行かせてくれるはずがない。
なんで今まで気がつかなかったのか。
考えることからにげてたのかな。それとも、どこか期待してた?
(期待したかったんだろうな)
バカだって思った。哀しいほどに、バカだ。
置いて行かれた時点で、そんなことありえないのに。
「……くん」
パーカーに顔を埋めて、息を吸う。
さっきかすかにした匂いが残ってた。
「はぁ」
外に出ると、二人が先に歩いて行ってしまった。
アレコレなにか話しながら。
「お金、きっともう振り込まれないよね」
今まではあのお金があったから、生きることだけは可能だった。
「どうしよう」
生かされてしまったあたし。あたしを生かした二人。
「マーナー?行くぞー」
「あ、はい」
どうしたいんだろう、あたしのことを。
ううん。どうすることもなく、ただ生かしただけだったら?
「はぁ」
ため息しか出ない。どうしようと思っても、答えなんか導き出せない。
足を止め、振り返る。まぶしい店内が見えた。
さっきあたしは、確かにあの中にいた。楽しい時間だった。
だから、あたしは、
「……寒い」
その場所から離れた今、寂しさがより一層濃くなって震えた。

