マンゴーをくぐらせたものの、口に運ぶ気にならなくなった。

「どうした?」

黙ってお皿を持って突っ立ってるあたしに、耳打ちする。

「つけたのに、食べる気が起きなくて」

正直もったいない。残しちゃダメなのに、たった一個が口に運べない。

「あー、だったらさ。……オヤジにやれば?」

「あ、うん」

言われるがままに。チョコつきのマンゴーを持っていく。

「どうかした?」

コーヒーを飲んでいた伊東さんに、「これ」とお皿を渡す。

「つけたのに、入っていかなくて」

そういうと、「いいよ。食べてあげるね」と笑って口に運ぶ。

その瞬間、「マジかよ」と背後から声がした。

(え?何が?)

そう思っていたら、目の前の伊東さんが激しくむせた。

「ゲホッ……!ゲホン、こほっ」

「え?え?大丈夫ですか?」

お冷を手渡すと、涙目のまま一気に飲み干す。

「バッカじゃねぇ?オヤジ」

呆れた口調でそういい、続けてこういった。

「甘いもの一切食えないくせして」

(えぇ?)

「だ、だって、伊東さんに食べさせろって。あたしてっきり食べられるんだとばかり」

こっちも涙目だ。

「オヤジがどんな反応するのか見たかったんだ」

バツ悪そうに頭を掻きながらそういい、「ごめん」と謝った。

まだ咳きこみつつ、ニッコリ笑う。

「平気だからね、マナちゃん」

あたしがしたことを許してくれる。

オロオロしたままでいると、大きなため息と声がした。

「オヤジ、マナに甘すぎんだよ」

そんなセリフ。

「そっか?普通だろ」

「甘い、甘すぎ。激甘だね」

照れる伊東さんにつられて真っ赤になる。

「……バカみたいな親子だな。ったく」

言葉自体はよくないけど、顔は笑ってる。

「ほら、残ってる分食べてしまえよ」

「おー」

「……はい」

その何気ない会話が嬉しくって、くすぐったい。