「他に思い出したい食い物あるか?」
伊東さんに似た笑顔が、そういった。
こういう時は、なんていえばいいの?
ママは何も教えてくれなかった。
どういえば今の気持ちが伝えられるだろう。
「食べ物、まだあるから。……その、もったいないし」
頭に浮かんだ部屋での食事。無駄に出来る食べ物がなかった生活。
「そっか。じゃ、なくなったら持ってきてやるからな」
その言葉に、「すいません」と返すと、不機嫌そうに言った。
「そういう時は、ありがとうでいいんだっつーの」
って。
コクコク頷くと満足そうに笑い、また頭を撫でてくれた。
まるで、『よくできました』って保育所で先生が撫でてくれた時みたい。
自然と顔が緩んでたのに、あたしだけが気づいていなかった。
2時間たっぷり使って、ゆっくりと食事をする。
最初の茶そばから始まって、中華がゆ、その後は少しずつ固形物を口にした。
噛むといろんな味がして、とても楽しい。
「ほら、パイン」
「あ、じゃ、お返しにバナナ」
チョコファウンテンとかいう、4段ある噴水みたいなモノ。
チョコが上から下に流れ落ちていく。
そこに長いフォークに刺した食べ物をくぐらせ、食べるというものだとか。
ある程度食事をすませた時、男一人だと行きにくいからと連れてこられた。
「どれもこれも、チョコ通すとデザートってよか、ただのお菓子じゃん」
うんうんと頷くと、「だろ?」と嬉しそうな笑顔が返ってくる。
気づけば普通に会話してて、思い出したこと。
お腹が満たされれば、自然体になるっていうこと。
実際荒んでた生活。食事だけじゃない。何もかもだ。
マシュマロをくぐらせ、ぱくりと食べる。
「それ美味いか?」
頷くと、真似してマシュマロをくぐらせ食べた。
美味しそうに食べるその顔を見て、ため息が出そうだ。
もうすぐこの時間が終わる。
時間になれば、あの場所に戻るしかない。
他に行き場がない。
不要と言われたのに、あの場所に戻る。ママはなんて思うだろう。

