こぶしを握って、何か言葉にしようとした瞬間。
「親子で見つめあってんじゃねぇよ」
という声に顔を横に向ける。
「ほら、お前の分も持ってきた」
トレイにたくさんのお皿。そして食べ物。
「ほら、そっちに詰めろ。俺は肉!で、オヤジは寿司だろ?」
喉まで出かかった言葉を飲み込み、言われるがままに窓の方にずれた。
「お前にしちゃ、ずいぶんと優しいな」
「そっちの物言いの方が、ずいぶんだっての」
話しながら、肉を焼き始める。
久しぶりの匂い。
「ん?どうかしたか」
肉をまじまじと見てたからか、不思議そうに尋ねられる。
焼ける肉の匂いが珍しいだなんて、答えられるはずがない。
「あ、お前のそれ。そばだったら麺モノだしよ、胃に負担かからないかなってよ。食ってみろよ」
「あ、はい」
器に入った緑色の麺。
「茶そばだってよ」
うんうんと頷き、箸先でつつく。
本当に食べていいのかなって今でも思ってる。
「早く食えって、遊んでないで。お前軽すぎなんだから、しっかり食え」
「え?」
「さっき、ちょっと腕引っ張っただけで吹っ飛んできたから、マジでビビった。俺」
わずかな時間だけど、男の子の腕の中にいたんだという事実を思い出し真っ赤になる。
「ナオ!」
「あ、悪い意味じゃなくてよ。……ごめん」
悪意のない言葉だってわかってたのに、困らせるような反応をしてしまった。
この人は実際優しんだと思う。
だって、体のことを考えた食べ物の選択。
それでも十分に優しいと思えた。ただ、素直に受け入れられないだけ。
「いただきます」
器に手を添え、ゆっくりとそばをすする。
噛むと麺の味。麺つゆの味。それが混ざって、ちゃんと食べ物になってた。
「あぁ……。おそばって、こんな味だったっけ」
噛みしめながら心で呟いてたはずの言葉は、無意識で表に出てしまった。
「ん?」
もう一口と思い、箸をつけようとした時、視線を感じた。
驚きの表情。それから、困った顔。そのうち哀しげな表情へと変化していく。
その二人の表情に戸惑っていたら、お兄ちゃんという人の手が頭に乗っかった。

