「行くよ」

の声に、ドアに置いてる自分の手をみる。

袖にはまだ血の跡。服にもところどころ血がシミになってる。

「あたし、やっぱり」

こんな恰好じゃいけないからと言いかけた時、助手席から大きな塊が飛んでくる。

「うぶっ」

顔に当たって、変な声が出た。

「マナ」

男の子があたしの名前を呼ぶ。

「それ、着ろ」

よくみると服だ。大きめのパーカー。

「袖まくってけば、着れないこともないだろ?結構長いから、下の方も隠れるし」

着ろと言われても、いちいち「いいの?」って気持ちになる。

黙ってパーカーとにらめっこしてると、手の上からその重みが消え、

「中学生なんだろ?自分で着れるよな?」

ズボッと頭にかぶせられた。

「袖くらいは自分で通せ」

「あ、う、うん」

袖を通す。ものすごく余ってる。

(おっきいなぁ)

汗の匂いがする。初めて嗅いだ匂い。

「さあ、行こう」

おそるおそる車を降り、二人の後に付いて行った。

 店内に入り、禁煙席に場所を取った。賑わう店内は、外から見た時よりまぶしい。

窓際の席に、腰かけた。

「はーっ、腹減りすぎ!もう取ってきていいか。オヤジ」

座る間もなく、行ってしまった。

どこを見てたらいいのかな。

(どうしよう)

こんな場所来たことないし。

「あの」

やっぱり悪い気がしてきた。

親子の団欒を邪魔するのはよくないよね。

「あ、マナちゃんも取りに行ってみるかい?病み上がりみたいなもんだからね、何から食べたらいいかな」

「や、そうじゃなくて……あたし」

口に出しかけた言葉が吐き出せないまま。

その言葉を伝えれば傷つけちゃうのかもと思ったのが半分。

残りは、漠然とだけど、団欒の邪魔をするとしても、この場にいたいと思い始めてるあたしも見え隠れしてて。

「あの」

立ち上がって、伊東さんに言おうとする。

「うん?何かな?」

ニコニコしてる伊東さんに、言葉を失ったままで混乱していく。

(言って、じゃあ帰っていいよと言われて、その後……また独りになるの?)

体がブルッと震え、顔を歪めた。