手が震える。怖かった。
目の前でこの男の子が落ちていくのを見たくなかった。
必死だった。
自分は死のうとしてたのに、この男の子が落ちなくてよかったなんて思った。
(あたし、何やってんだろう)
結果的に死ねなかったし、人助けまでしてる。
さっきみた景色に目をやると、色とりどりの明かりがさっきより増えて、もっとキレイ。
涙がツーッと流れる。
いろんな感情が頭の中にいっぱいだ。
「あたし」
やっぱりダメ。死ななきゃ!
そう思い、体を起こそうとするも、体が動かない。
「逃がすわけねぇって」
男の子に、しっかりと腕を掴まれていた。
やがて重たいドアが開く。誰かが非常階段へと近づく。
廊下の明かりを背にしてるせいか、顔がよく見えない。ただ、
「おかえり」
聞こえた声は、聞き覚えのある声。
「さぁ、帰ろう」
男の子と誰かに掴まれた両手。
振り返る非常階段。
その隙間に見えた夜景は、後ろ髪を引かれるほどにキレイだった。
暗い場所から明るい場所へ。明るさにまだ目が慣れない。
数歩歩いたところで、やっと目を開けられた。
「お腹空いただろ」
目の前にいたのは、伊東さんとしらない男の子で。
「どうして」
慌てて二つの手を同時に振り払う。
「なんで?」
そして、叫んだ。
「なんでいるの?」
迎えに来た人。他人。再婚したっていっても、あたしは家族じゃない。
他人が迎えに来たんだ。
関わりを避けていただけに、どうしていいのかわからなくなる。
「伊東さんなんて、他人じゃない!それに」
男の子を横目で見る。
「……他人、ばっかり。他人しか、いないじゃ……ない」
涙が目の幅に溢れだした。

