『いなくなればいい。自由になりたい』

アキが生まれても、ママの生活には変化がなくて。

「……」

『誰かこの子、殺してくれないかな』

あの時ママが言ってた、アキを死なせてくれて感謝してるといった言葉を思い出した。

この言葉のままで考えれば、嬉しかったっていうことかな。

『一人でいた方がよかった。幸せはここにはないもの』

最後の一行に、ママの声が聞こえそうだ。その行だけを繰り返し読んでしまう。

そして、なんでかな。ふ……と、隣の部屋にいるはずの秋を思った。

あたしは秋と手をつなぐのが好きだ。小さな小さな手が好き。

その手は小さいのに、いつもあたたかい。それを感じられるあたし。

普通のことなのに、それがとても幸せなことだとわかっているのに。

(怖いんだ、どこか)

幸せということに慣れられないあたし。だから、不安にもなる。

幸せじゃなかったママを思うと勝手に湧きだす罪悪感のような思い。

あたしはこんなにも幸せでいいのかなって。

離乳食も比較的順調で、凌平さんも協力的で、お兄ちゃんもシンもいて。

会うことが叶わなくても、こうしてお父さんは気にかけてくれている。その存在だけでもあたたかいんだ。

ママに首を絞められてから、首に何かを巻くってことは出来なかった。

今はネックレス程度なら、つけられるまでになった。

あたしが育児をちゃんと頑張れて、この子を迷うことなく育てられて。

そして、凌平さんと夫婦として歩き続けていけたら、そしたら……って思ってた。

自己満足になってもいいから、あたしが笑っていられたら。

同じことを繰り返すって言われてたあの声にも、違うっていえるかもって思ってた。

思いたかった。だけど、

「幸せって……感じて、いいはずなのに」

ノートをパタンと閉じ、目を瞑る。

「満たされてるのに」

不安をかき消すように、自分を抱きしめる。あの頃、寂しさに寒さに挫けないようにしてたこと。

腕に痛いくらい、指が食い込む。

しばらく何も言えずに自分を抱きしめていた。凌平さんを呼ぶこともできるのに、それすら浮かばなかった。

 どれくらい経っただろう。隣から泣き声がした。

「行かなきゃ」

封筒にすべてをしまおうとした時、封筒に違和感があった。

折りたたまれてもいない紙。なんでさっき気づかなかったのかな。

それはお兄ちゃんからの手紙。

『お前の周りには、お前の母親にはなかったもので溢れている。なのに、それを振り返って確かめることもしないで、また……壁を作ろうとしてる』

お兄ちゃんはあたしの悩みを的確に書いていた。