「背中の方は、あたしが拭くわね」

「うん、ごめんね」

「いいのよ。そういう時は、ただありがとうっていうようにしなさいな」

お兄ちゃんがよくいう言葉だ。

「うん」

なんだか嬉しくなって、ニコニコしながら背中を拭いてもらってた。

「たっだいまー……って、何、これ」

あたしとシンを見て、凌平さんの顔つきが変わっていく。

「おかえりなさい」

何も考えずにそう声をかけたあたしに、シンがタオルを手渡す。

「あれ、背中ってもう終わり?」

シンにそう声をかけた瞬間、凌平さんがレジ袋を床に落とし、部屋に入ってきた。

「続きは俺やるから。留守番ありがとね」

シンを睨みつけて、リビングへと追いやる。部屋のドアを閉め、ドアの前で立ったままあたしを睨む。

「ん、と」

何かしたのかな、また。

「悪いけど、これは覚えておいてくれる?」

「あ、はい」

着替え用のパジャマで胸を隠しながら、凌平さんを見つめる。

「そういう格好、シンでもダメ。見せないで」

「あー」

そういうことか。自分がよくても、周りが嫌な時もあるのね。

「本当に覚えて!あと、雰囲気に流されるのも禁止」

そういってあたしの手からタオルを取って、背中を拭いてくれる。

「ほら、早く着替えちゃおうよ」

ダルさで体が動かないあたしの代わりに、ボタンまで留めてくれる。

「ちょっとだけ待ってて。雑炊の前に、食べさせたいものあるんだ」

部屋を出て、シンに何か言い、しばらくするとまた戻ってきた。

「これ、食べさせたかったんだ」

持ってきたのは、すりおろしたリンゴ。

「はい、あーんして」

「え、自分で食べる、から」

凌平さんってこんなに甘やかす人だったの?部屋の向こうで、シンがこっちみて笑ってるし。

「は、恥ずかしいです」

「なんでさ、いいじゃん」

あたしの照れなんて見なかったことにするみたい。

「あーん」

繰り返し、あたしを見つめたまま待っている。

(とにかく一回食べれば納得するよね)

パクリと一口食べると、甘酸っぱい味と香りがした。

食べたことないのに、懐かしい味。

「美味しい?」

コクコク頷くと、凌平さんがどんどん口に入れてくる。

「自分で食べられるから」

そう何度言っても、凌平さんの手が止まることはない。

「頼むからさ、今日だけ。今日だけ、好きにさせて」

その表情がやけに寂しそうで、好きにさせてあげることにした。

「……ごめんね」

そういい、最後のひと匙まで食べさせてくれた。