何度も包み込まれたことがある、この腕の中。胸から感じる心音。柑橘系の香り。
「あー。やっぱ、ダメ。無理。好きな女の子のこんな顔、見たくないや」
ギュッと力が込められる腕。
「俺さ、大人だから。だから、その……狡いんだ」
言ってることがわからないよ、凌平さん。
「試さなきゃ、引っ張りだせないんだよね。マナって女の子の本心って」
「……え」
また騙されたの?からわれたの?
「そ、そうやって、どうしてからかうの?」
体の間に腕を入れて、凌平さんと距離を取ろうとした。
「からかってなんかねぇよ」
ぴしゃりと言い切った声は、トーンを落とした声。
「一体どういう言葉でいえば、俺の言葉をそのまま信じられる?」
「だって、鵜呑みにしてからかわれても哀しいし。そ、それに」
「……それに?なに」
すこしだけ離れた体の隙間。俯くと、凌平さんの鎖骨に頭がコツンと当たった。
「ちゃんと恋を知る前に失恋なんて、悲しすぎる」
凌平さんのシャツを握ると、頭上を撫でる手の感触。
「誰が誰に失恋するってんだよ。ったく」
そう小声で言ったのは、あたしには聴こえていなかった。
「わかった。マナってさ、いちいちちゃんと言葉にしなきゃ伝わらないんだ。ね?」
「ね?って言われても」
どうなんだろう。
「あと、信じてくれるまで、永遠に時間がいる」
「永遠って、どれくらい永遠なのか」
永遠って死ぬまでってことだよね。そんなにかかるのかな、あたしって。
「はー……っ」
あたしの頭にあごを乗っけた。その重みに顔がさらに俯く。
「うん、わかったから」
またきっと頭上にハテナだ。
「マナの扱い方、やっとわかった。うん。もういいや」
この言葉に対して、あたしは何をどう返せばいい?俯いたまま、ただ困ってた。
「確認」
そう声が聞こえて、体が離された。でも呼吸が触れそうな距離に変わりはない。
「俺は、マナが好き」
いいながら、右手を見せる。
「あれ」
凌平さんの手に指輪。いつも着けていたっけ?
「この指って」
右手の薬指だ。思わず見入ってしまう。
「俺のこの指輪の相手、マナだから」
「あ、たし」
「でさ、マナのこの指輪」
そういいながら、あたしの右手を手のひらに乗せる。
「相手、俺?他?」
と聞いてくる。言っても笑われないかな。
ジーッとみつめると「試しに言ってみなよ」という。
「試しても平気?」
おずおずと聞けば「言って欲しいんだって」と微笑む。

