「泣かないで」

いつのまにかはだけていたシャツ。その胸の谷間に、顔をこすりつけて大きく息を吐いた。

「やっぱり俺、マザコンなのかな」

「どうしてですか」

「なんかね、こうしてると安心するんだもん」

悲しい別れ方をしたからなのかもと言いかけて、口を噤んだ。

「いいですよ。お母さんって呼んでも」

あの時の冗談を思い出した。お母さんといいながら、猫のようにじゃれてきたこと。

「……ヤダ」

いつもの口癖。

「ね、マナ」

「はい」

「手、出して」

凌平さんが、ゆっくりと体を離して背中を向けた。

「こう、かな」

手のひらを上にして出して、大人しくしてた。

振り返った凌平さんが、「なんでそうなるのかな」と呆れつつ、手の甲を上にした。

「……ふぅ」

大きく深呼吸をして、すこし俯いて。なにかあるのかと身構えていると、あたしの手を取った。

「マナに聞きたいことがある」

「あ、はい」

どうしよう。こういう空気って苦手だ。

「ハッキリ聞くけど、好きな人いるの?」

そういわれて、目の前に気になってる人がいますと言っていいのか迷う。

凌平さんがあたしに好きだと言ってくれたのを、ずべて鵜呑みに出来ないままだし。

さっきからくれている、あたしが特別という想い。それもまだ信じきれない。

それに、その言葉に浮かれてあたしもですなんて言っても、からかってたとか言われないだろうか。

「う……ん、はい」

悩みに悩んで、かろうじてそう返す。

「それじゃ、これあげる」

右手の薬指。前に教えてくれた、好きな人がいるときに指輪をはめる指だ。

「好きな人がいますって証し。それでさ、誰なのか。俺には知る権利……ない?」

真っすぐに射抜かれそうな視線で見つめられる。

「権利って、その」

シンがこの場にいたらよかった。わからないことが聞けるのに。

(凌平さんって、あたしのことホントのホントで好きなのかな)

迷ったままで、あやふやなことも言いにくい。

「じゃあ、やっぱり誰とでも流されてしまえばキスするの?出来ちゃうの?」

指輪をはめた手を取り、その指輪の上から小さくキスを落とす。

その仕草が艶めかしくて、正視できない。やっぱり凌平さんは大人の男の人だ。

(あたしみたいな子供じゃ役不足だよ)

自分の幼さや知識のなさを痛感するたびに、やっぱりダメだと歯止めしたくなる。

「じゃあ、質問変えるよ。……俺、いなくなろうかと思って」

「……え」

また聞き間違い?

「マナから離れようかなって」