「……ナオト、シン」

「ん?なんだよ」

凌平さんが怖い顔つきになった。

「悪いけど、二人にしてくれない?この後、二人でお祝いしたいんだ」

ものすごく低い声。

「あー、はいはい。了解よ。っとに、空気が読めないって大変ね。そういう子を好きになると」

「そりゃどうも」

お兄ちゃんとシンがバタバタと部屋から出て行ってしまう。

「あ、ちょっと待って。まだケーキ食べてないよ」

あたしは呑気に二人にそういいながら、玄関まで追いかけようとした。

「待てよ、マナ」

低いままの凌平さんの声。あたしの手首をつかむ冷たい手。

「いつまで馬鹿にするつもり」

睨みつけるその視線は、初めてみたもの。

「二人と一緒のケーキなんて、この先いくらだって食えるだろ」

静かに語りかける凌平さんは、とても威圧的。あたしは手首を掴まれたまま、動けなくなった。

「こっち」

短く言われながら引っ張っていったのは、あたしの部屋。

「きゃっ」

ベッドにトンと押され、あたしはよろけながらベッドに倒れた。

肘をつき半身を起こす。睨んだままの凌平さんを、どうしていいのか分からないまま見上げる。

「言ってなかった?俺。そんなに足りない?」

何のことだろう。

「言ったじゃん。俺と結婚してって」

「だ、だってそれは」

あたしが繰り返すかもしれないって思ったことへの、いつもの凌平さんの空気が言わせたものだろうって鵜呑みにしなかった。

あたしがママみたいに、誰かと結婚するなんて叶わない夢だって思ってたの。

「ナオトに告白されて、マナのことだからキスくらいしたんだろ」

「あたしだからって言われても」

「……流されて生きてきたからね、マナは。ナオトにも雰囲気に流されて、許したんだろ。キスするのくらいはいいかなってさ」

図星なのに認めたくない、その言われよう。

「だったらナオトと結婚でもするのかよ。しようって言われたら、流されるの?」

「違うもん。お兄ちゃんはお兄ちゃんだもの」

「でも……したんだろ」

言葉に詰まる。それは肯定を意味するのに。

「……はぁ。マナ、俺だけ浮かれてたの?マナが俺と付き合ってくれてるって思ってたの、俺だけだったのかよ」

そうはいわれても、どう始まると付き合ったというのかもわからないから。

「だって、凌平さんの周りには、可愛い子とか、明るい子とか。たくさんいるし。その……あたしじゃなくても平気じゃ、ないかなとか。その」

口ごもる。凌平さんの周りを思い出してみるたび、本当は寂しくなるくせに。